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防災2019年7月30日

災害避難時の大敵 正常性バイアスとは

災害避難時の大敵 正常性バイアスとは


こんにちは。
今年は平年に比べ、長い梅雨が続きましたが、体調をくずされてはおりませんか。
梅雨の晴れ間には、太陽の有難みがしみじみ感じられます。
梅雨前線による大雨によって、警報や注意報が発令されることも多々あり、
テレビで流れる防災情報にどこか慣れてしまったという人もいるのではないでしょうか。
またか…」「ここは大丈夫だろう」「自分には関係ない
誰にでも経験があると思われるこれらの感覚、実は重大な危険性をはらんでいるのをご存知ですか?
今回のコラムは災害時の人の心理と行動についてです。
正常性バイアスという言葉をキーワードにご説明していきます。



目次:

↓ 心の平穏を保つ働き「正常性バイアス」

↓ 正常性バイアスが逃げ遅れの原因になる

↓ 災害時の正常性バイアスへの対処法

↓ 災害避難時の大敵 正常性バイアスとは・まとめ





心の平穏を保つ働き「正常性バイアス」



みなさんは正常性バイアスという言葉を聞いたことがありますか。
正常性バイアスとは元々、心理学や医療分野で使われる用語で、
自分に都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう心理機能のことです。
私たちは日々生きている中で、外部の様々な出来事や情報にさらされています。
それらの刺激にいちいち過剰に反応していては恐怖や不安で精神が疲弊してしまいます。
そこで、心の平穏を保とうと働くのが正常性バイアスです。
正常性バイアスが働くことで私たちは、ちょっとした刺激に鈍感でいられるのです。
しかし問題なのは、災害などの本当の異常事態に直面した時
地震や台風などの災害を、この正常性バイアスをもって認識してしまうと
本来であれば一刻も早く行動を起こさないといけないような非常事態でも、
「自分は大丈夫」「まだ大丈夫」という偏見(バイアス)によって、
これは正常の範囲内だと無理やり認識しようとしてしまうのです。




正常性バイアスが逃げ遅れの原因になる



冒頭で述べた重大な危険性とは、災害に対する初動の遅れのことです。
地震などの災害時に正常性バイアスが働くと、避難行動に遅れが出ることが分かっています。
具体的にどういうことか、国内の過去の災害事例をもとにご説明します。

〇 2011年 東日本大震災 
「沿岸部の人間は何度も津波警報に踊らされてきた。今回もどうせ来ないだろうと考え、避難が遅れた。」「30年前の宮城県沖地震でも津波が来なかったため、今回も大したことはないだろうと思っていた。」「堤防があり、ハザードマップでも浸水地域になっていなかったため、津波は来ないだろうと思っていた。」
被災者への調査により、これらの証言が明らかとなっています。
津波に対する思い込みが迅速な避難行動の妨げになっていたことが想像できます。
参考:『東日本大震災時の地震・津波避難に関する避難支援者ヒアリング調査』2012年12月内閣府(防災担当)

〇 2016年 熊本地震
4月14日21時26分、熊本県熊本地方を震央とするマグニチュード6.5の地震が発生。
夜間の地震だったこともあり、多くの人が自宅にとどまっていたところ、
その28時間後の4月16日1時25分に同じく熊本県熊本地方を震央とする
マグニチュード7.3の本震が発生。家屋の倒壊などにより多くの被害がでました。
参考:『「正常性バイアス」とは、災害時や緊急時に「自分は大丈夫」と思い込んでしまう、危険な脳のはたらき』2016年4月21日tenki.jp(日本気象協会)

〇 2018年 西日本豪雨
数十年に一度の大雨が予想される大雨特別警報が発令。
しかし、全域に避難指示が出た広島市安佐北区でも、全体のわずか5%強の世帯が
避難所へ避難しただけでした。
犠牲者の約8割は屋内で発見されており、浸水被害から逃げ遅れたとみられています。
参考:『【西日本豪雨】自分だけは大丈夫…避難行動の遅れ背景に「正常性バイアス」』THE SANKEI NEWS(産経新聞)

列挙した災害被害の多くに、正常性バイアスが関わっていると考えられます。
特に豪雨による被害は、地震と比べて被害の全容が実感できるまでに時間がかかり、
その分余計にバイアスがかかる傾向にあると言われています。




災害時の正常性バイアスへの対処法



私たちはこういった過去の災害被害を教訓に、どのような対策をとるべきなのでしょうか。
正常性バイアスにとらわれず正しい避難行動をとるために大切なのは、
なによりもまず、正常性バイアスが誰にでも起こりうると自覚することです。
自分には関係ないと油断していないか。被害予想を軽く捉えていないか。
自分は正常性バイアスにとらわれていないか。都度、自問自答する習慣をつけましょう。
そのうえで、警報や注意報を素直に受け止め、最悪の事態をしっかりと想定して
しかるべき避難をするようにしましょう。
もし仮に大きな被害もなく、避難が取り越し苦労で終わったとしても、丁度いい防災訓練になったと考えればいいのです。





災害避難時の大敵 正常性バイアスとは・まとめ



地震などの災害に直面した時、正常性バイアスにとらわれないようにする姿勢も大切ですが、
その前に、日頃の防災訓練も忘れてはいけません。
防災訓練により避難行動を反復予行練習しておくことで、
万一の時に判断力が鈍っていても、自然と身を守る行動がとれるようになるはずです。
想定外の災害はいつでも起こる可能性があります。
決して油断することのないように、正しい防災行動を心掛けましょう。


参考文献
月内閣府(防災担当)2012年12『東日本大震災時の地震・津波避難に関する避難支援者ヒアリング調査』
tenki.jp(日本気象協会) 2016年4月21日『「正常性バイアス」とは、災害時や緊急時に「自分は大丈夫」と思い込んでしまう、危険な脳のはたらき』
THE SANKEI NEWS(産経新聞)『【西日本豪雨】自分だけは大丈夫…避難行動の遅れ背景に「正常性バイアス」』