ウッドピタの地震防災コラム

ホーム  >  新耐震基準の効果と問題点をチェック!

耐震診断2020年2月6日

新耐震基準の効果と問題点をチェック!

新耐震基準の効果と問題点をチェック!

こんにちは。
令和2年、初めての地震コラムです。今年もよろしくお付き合いください。

実は、2020年は「耐震」にとって大きな目標の年でもあります。
政府は木造住宅の耐震化を進めるにあたり、2020年には住宅の約95%の耐震化を目標として掲げています。
2013年度の統計では耐震化率約82%でした。果たして、2020年度の結果はどうでしょうか。
耐震補強を検討中の方々にとって、今年は決断するいい機会かもしれません。
そこで今回は、耐震化を行うかどうかの目安となる耐震基準について、改めておさらいしたいと思います。



目次:

↓ 地震被害を反映する耐震基準

↓ 旧耐震基準と新耐震基準の違いは?

↓ 熊本地震で明らかになった耐震基準の効果

↓ 熊本地震で出てきた耐震基準の問題点「直下率」


↓ 新耐震基準の効果と問題点をチェック!・まとめ




地震被害を反映する耐震基準


木造住宅を含めて、建物は建築基準法をクリアしていないと建てられません。耐震基準はその建築基準法の一環で、文字通り耐震性を測る基準となるものです。
耐震基準は「生きた法律」とも呼ばれ、大地震が起きるたびに被害を検証し、それまでの盲点だった部分があらわになって、幾度も改正されてきました。
そのため、旧耐震基準新耐震基準、さらに新耐震基準をベースとした新・新耐震基準(2000年基準)という区分けがされるようになったのですが、皆さんはご自宅がどの耐震基準に合致しているのか、ご存じでしょうか。
キーワードは、1981年、2000年です。
耐震基準の流れが手っ取り早くわかるように、簡単な年表にしてみました。


耐震基準の流れ



旧耐震基準と新耐震基準の違いは?


旧耐震基準は、1978年の宮城沖地震の被害状況を受けて、1981年に新耐震基準へと改正されました。必要壁量を1.4倍に増加し、建物の強度を高める狙いがありました。
旧耐震基準と新耐震基準で違いが分かりやすいのは、震度に対する規定です。


旧耐震基準と新耐震基準の違い

ところが、1995年の阪神・淡路大震災の被害を検証すると、新耐震基準で壁量を増やしたのはよかったものの、そのバランスを欠いたことが倒壊原因の一つになってしまったのです。ほかにも、結合部の構造や、地盤に対する基礎構造などに問題があることがわかってきました。
そこで2000年に新耐震基準の規定にいくつかの規定をプラスしたのが、現行の新・新耐震基準(2000年基準)です。
2000年には、住宅性能表示制度も制定され、地震に対する建物の強度を示す指標として「耐震等級」が設定されました。


耐震等級


熊本地震で明らかになった耐震基準の効果


ただ、新耐震基準にしても、「震度5強程度の、数十年に一度の頻度で発生する地震」あるいは「震度6強から7に相当する、数百年に一度程度の極めて稀に発生する地震」という想定で定められたものでした。
ところが2016年に発生した熊本地震では、前震と本震で震度7が2回という想定外のことが起きてしまったのです。自然の力は未だ人智の及ばない領域であると痛感させられました。

ここで熊本地震における木造建築の被害状況を見てみましょう。


熊本地震における木造の建築時期別の被害状況
(国土交通省HP「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書より)


熊本地震における木造の建築時期別の被害状況

旧耐震基準に比べて、新耐震基準、新・新耐震基準の建物は倒壊・崩壊がかなり少なく、無被害が増えています。想定外の状況の中でも何とか持ちこたえたということは、1981年、2000年の耐震基準の見直しがある程度の効果を上げていると言えるでしょう。
この結果から、旧耐震基準の住宅については早急の耐震化が必要であることが一層顕著になりました。




熊本地震で出てきた耐震基準の問題点「直下率」


一定の評価を得た新耐震基準ですが、それでも倒壊・崩壊がゼロであったわけではありません。
新耐震基準で76棟(8.7%)、新・新耐震基準で7棟(2.2%)が倒壊・崩壊───この数字を「少なくてよかったね」とは言えないのです。1棟でも大きな被害が出ているのであれば、原因を究明し、耐震基準の見直しをするなどして、今後の被害防止に役立てなければいけません。
そのため、新耐震基準以降の建築でありながら倒壊してしまった住宅についても、「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」(※1)によって倒壊の原因分析が行われています。
※1:国土交通省と建築研究所が連携して設置。
結果として「接合部の仕様が不十分であったものに倒壊が多く見られたことから、こうしたものの被害の抑制に向けた取り組みが必要」といった報告がされています。つまり、施工ミスや配慮に欠けた設計があったのではないかということです。また、地盤の影響にも言及しています。
もちろん倒壊の原因は1つではなく、いろいろ考えられるのですが、上記の報告書とは別に、有識者が注目しているのは「直下率」です。NHKの情報番組(2016年)で取り上げられたのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。
直下率とは、1階の壁・柱の位置と、2階の壁・柱の位置が、どれだけ一致するかという割合を示すものです。数字が大きいほど安定した建物ということになり、柱の直下率は50%以上壁の直下率は60%以上が望ましいとされています。
柱の直下率=1階と2階で同じ位置に造られた柱の本数÷2階の柱の本数×100
壁の直下率=1階と2階で同じ位置に造られた壁の長さ÷2階の壁の長さ×100


直下率の比較

熊本地震で新耐震基準以降でありながら倒壊した住宅は、その直下率が低かったことが影響したのではないか、というのです。
現行の耐震基準には直下率の規定がありません
そのため、熊本地震の場合のように、耐震等級2の住宅であっても、「直下率は柱が47.5%、耐力壁が17.8%(X方向)で特に耐力壁の直下率が小さい(※2)」といったケースも出てきてしまうわけです。
※2:日経ホームビルダーWeb版2016年9月2日より
今のところ、直下率と倒壊の関係については、専門家の間でもいろいろな見解があるようです。今後、解明が進めば、耐震基準の改正に直下率も盛り込まれるかもしれません。




新耐震基準の効果と問題点をチェック!・まとめ


思えば、新耐震基準がスタートしてから39年、新・新耐震基準でも20年が経っています。
全体の評価として現行の耐震基準は効果を上げていることから、耐震基準の見直しは当面行われないようですが、熊本地震以降も北海道胆振東部地震をはじめ各地で地震は起きています。首都直下地震、南海トラフ巨大地震への懸念も益々高まっていますから、今後、どの時点で現行の基準(新・新耐震基準)が改正されるのか、見守りたいところです。
最後に、大切なことをもう一度!
旧耐震基準は1981年5月31日以前、新耐震基準は1981年6月1日以降、新・新耐震基準は2000年6月1日以降、いずれも建築確認済証の日付で判断します(着工日でも竣工日でもありません!)。
ご自宅の耐震基準をぜひ確認してみてください。

耐震基準と耐震補強については当コラムでも以前にご紹介しています。そちらもぜひご覧ください。
→ 建築年度でなぜ耐震強度に違いが出るのか



参考:気象庁ホームページ
国土交通省「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書
日経ホームビルダーWEB版